7. エコシステムの崩壊

 地球温暖化をはじ めとする自然の脅威はさまざまな形で現実化し、災害が都市を破壊し、都市機能を麻痺させることは2005年 のハリケーン・カトリーナの例で顕著に示された。このようなエコシステムの崩壊は、2011年3月11日に発生した東北沖大地震と津波、それに続く 福島第1原子力発電所の事故により、日本でもまざまざと示されつつある。作家の想像力は、現実に生 起した災厄的な自然の変容という状況下での人間の心理・行動だけでなく、近未来の世界やトリックスターが活躍する神話的世界における自然の脅威にも目を向 け、核戦争や環境破壊により文明の廃墟となった地球にたたずむ人間というアポカリプスのヴィジョンも描き出す。災害と都市の破壊という観点では、テクノロ ジーが形作る未来都市がディストピアに変容する過程は社会に潜む人間の暗部を明るみに出し、人種問題が色濃く絡んだ爆破事件による災害は都市機能が十全に 機能していない現状を浮き彫りにする。具体的には『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティとジェンダーで読む現代英語環境文学103選』第7章を参照されたい。         (浅井千晶)

第7章 エコシステムの崩壊 目次

44 環境的人種差別主義とフィラデルフィアの現実(中垣恒太郎)
  ジョン・エドガー・ワイドマン『フィラデルフィアの大火』(1990)
45 先住民の語りによる修正(藤吉清次郎)
  トーマス・キング『青い草、流れる水』(1993)
46 管理社会における自我の喪失(真野剛)
  J・G・バラード『スーパー・カンヌ』(2000)
47 アメリカ元副大統領による環境啓蒙活動(城戸光世)
  アル・ゴア『不都合な真実』(2006)
48 エコロジーの崩壊とポスト・アポカリプス小説(タラス・サック/木村明美訳)
  コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』(2006)
49 文明崩壊後の世界におけるサバイバル・ストーリー(城戸光世)
  マーガレット・アトウッド『洪水の年』(2009)

コラム19 都市の環境正義とアメリカの悲劇(中垣恒太郎)
  スパイク・リー監督『堤防が決壊したとき』(2006)
コラム20 人類消滅後の未来予測(毛利律子)
  アラン・ロイズマン『人類が消えた世界』(2007)

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