かつて植民地であった場所の環境は、その土地が被った植民地化の歴史と密接に関連している。環境主義的な批評は、これまで原始の自然と特定の場所の文学に重きを置いていたが、ポストコロニアルな文学の興隆は、植民地化された異文化混交的な場所について環境批評の新しい展開を促している。国家間の不平等な階層関係は、現代にもなお残存し、土地を奪われそして追放された人びとの困難な状況は緊急の課題となっている。このテーマにおいては、経済的効率や植民地政策によって暴力的に変形させられた自然に注目し、「原始」の 自然の成立を疑問視することによって、帝国主義的搾取により「第三世界」化された場所と人びととの新たな関係について考える必要がある。具体的には『オル タナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティとジェンダーで読む現代英語環境文学103選』第3章を参照されたい。 (吉田美津)
第3章 自然と植民地主義 目次
18 コロニアル・パストラルを撃つ(溝口昭子)
ナディン・ゴーディマ『コンサベーショニスト』(1974)
19 研ぎ澄まされる感性、深まる内省(熊本早苗)
アニー・ディラード『石に話すことを教える』(1982)
20 土地収奪と農村開発(平尾吉直)
シマ―・チノジカ『朝の露』(1982)
21 自覚がもたらす環境への二重意識(浅井千晶)
ジャメイカ・キンケイド『アニー・ジョン』(1985)
22 鉄路と水路、トポスとしてのアストラン(水野敦子)
ルドルフォ・アナーヤ『アルバカーキ』(1992)
23 土地との絆の回復、自然との交感(浅井千晶)
トニ・モリスン『パラダイス』(1998)
コラム7 現代における〈自然〉の再定義(城戸光世)
ウィリアム・クロノン編『アンコモン・グラウンド』(1996)
コラム8 ポストコロニアル・エコクリティシズムの新たな展開(吉田美津)
グラハム・ハガン、ヘレン・ティフィン『ポストコロニアル・エコクリティシズム』(2010)