10. 音楽と映画

 自分たちの住む地球の環境的脆さを誰もが意識する現在、エコロジーや自然環境保護をテーマとする映画は、ここ二十 年ほどで数も種類も世界の映画界で目立ってきた。エンターテイメント性の高いストーリーに環境危機の主題が織り込まれたハリウッド大作映画から、北極や深 海といったいわゆる秘境もの、絶滅危惧種の珍しい動植物たちのドキュメンタリー、あるいは、アジアや欧米でも評価の高い宮崎駿監督を代表とするアニメー ション作品に至るまで、21世紀に入り、環境的終末の近未来的映像を映し出す作品が次々と登場して いる。優れた映像美や緊迫感あふれる物語によって、聴衆の環境意識や危機感を高め、環境保護に向けた行動を促すのに、映画というメディアが果たす役割は大 きい。一方音楽についても独自の領域を積み上げてきた。ジョン・ミューアはかつて「あらゆるものがその生命で音楽を奏でる」と述べたが、シェーファーの提 唱したサウンドスケープの概念の根底には、万物に宿る音楽にじっと耳傾けようとする環境への畏敬の精神があるのかもしれない。また曲とともに歌詞という形 で具体的なメッセージや思想性を織り込めるポピュラー音楽ジャンルでは、60年代のカウンターカル チャー以降多様なアーティストが、戦争にかかわるプロテストソングの中でも環境危機に警告を鳴らしてきた。ボブ・ディラン、イーグルス、マイケル・ジャク ソンにいたるスターたちも、地球の未来を歌う偉大な現代の吟遊詩人である。具体的には、『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティとジェンダーで 読む現代英語環境文学103選』第10章を参照されたい。         (城戸光世)

第10章 音楽と映画 目次

67 1960年代のロックにおける環境意識とカウンター・カルチャー(福屋利信)
  ボブ・ディラン「ひどい雨がふりそうなんだ」(1963)
68 環境破壊に対する告発と世界の再生への祈り(中垣恒太郎)
  マイケル・ジャクソン「アース・ソング」(1995)
69 21世紀のロックシーンと環境運動、ポスト・カウンター・カルチャー(福屋利信)
  イーグルス「失われた森を求めて」(2007)
70 フロンティアと先住民への讃歌(辻祥子)
  ケヴィン・コスナー監督『ダンス・ウィズ・ウルヴズ』(1990)
71 グローバリズムがもたらす生態系破壊と貧困問題(中垣恒太郎)
  フーベルト・ザウパー監督『ダーウィンの悪夢』(2004)
72 地球が主役のネイチャー・ドキュメンタリー(大野美砂)
  アラステア・フォザーギル監督、マーク・リンフィールド監督『アース』(2007)
73 資源への欲望と自然共生との闘争を描くSF大作(城戸光世)
  ジェイムズ・キャメロン監督『アバター』(2009)

コラム29 サウンドスケープ――聴覚の解放と新エコロジー感覚(塩田弘)
  レイモンド・マリー・シェーファー『世界の調律』(1977)
コラム30 自然災害映画にみるアメリカの黙示録的ビジョン(三重野佳子)
  ローランド・エメリッヒ監督『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)
  ミミ・レダー監督『ディープ・インパクト』(1998)

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