4. 土地の歴史と喪失

 侵略や強制移動などによる「ホームランド」と呼ぶべき土地の喪失は、固有の土地を中心とする重層的なナラティヴを構築してきた。土地簒奪、土地喪失、ディアスポラ、強制移動や難民体験に加え、土地開発による自然荒廃などの歴史的背景の中で、移民政策、先住民と侵略者の自然観や土地観の相違、土地と共同体、土地と自己アイデ ンティティ、ローカリズムとグローバリズムなどの関係が検証され、土地の歴史化を模索する作品が創出されてきた。一方、21世紀に入り加速するグローバリ ゼーションの中で、特定の土地と人との関係は希薄になり、空港やショッピングセンターなど、どこでもありどこでもない場所(「非場所」)なる空間に身を置 くスーパーモダンな生活体験がより日常化する中で、土地と人との関係も再定義が試みられ、惑星主義やグローバル・ディアスポラも視野に入れた議論が展開し ている。具体的には『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティとジェンダーで読む現代英語環境文学103選』第4章を参照されたい。     (横田由理)

第4章 土地の歴史と喪失 目次

24 砂漠における収容所体験(桧原美恵)
  ミツエ・ヤマダ『収容所ノート――ミツエ・ヤマダ作品集』(1976)
25 喪失感/カナダの自然(桧原美恵)
  ジョイ・コガワ『失われた祖国』(1981)
26 土地喪失と共同体崩壊、和解と再生への部族的ナラティヴ(横田由理)
  ルイーズ・アードリック『トラックス』(1988)
27 ユダヤ人作家マラマッドの西部と自然(三重野佳子)
  バーナード・マラマッド『ザ・ピープルと未収録短編』(1989)
28 観光産業と民間信仰のはざまで(風呂本惇子)
  デレック・ウォルコット『オメロス』(1990)
29 土地・共同体への搾取と暴力への抵抗のナラティヴ(横田由理)
  リンダ・ホーガン『卑劣な聖霊』(1990)
30 土地簒奪(強制移住) (大島由起子)
  クレイグ・S・ウォーマック『火に溺れて』(2001)

コラム11 ニュージーランドのマオリ文学と先祖の土地(浅井千晶)
  パトリシア・グレイス『ポティキ』(1986)
コラム12 場所と自己の再創造・再領土化(横田由理)
  ドネル・N・ドゥリーズ『エコクリティシズム』(2002)

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