いきものは、昨今のポストコロニアル批評理論隆盛のなかで 環境文学における最も重要なテーマのひとつとなっている。いきものの語りはさまざまな神話的歴史的影響を受けて、人間との二項対立を色褪せさせ、人間とい きものの境界の消失、いきものの文化的構築性が議論されている。自然の大破壊や野生動物の殺戮の一方で、人間と動物両者に相互依存の関係性とハイブリッ ディティを見出し、人間と非人間との二元論的世界からの脱却を目指すダナ・ハラウェイのような生物学者も登場し、いきものの語りに新たな地平を切り開いて いる。具体的には『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティとジェンダーで読む現代英語環境文学103選』第5章を参照されたい。 (水野敦子)
第5章 いきものを語る 目次
31 癒しの「東洋」、神秘の「自然」(藤本幸伸)
ピーター・マシーセン『雪豹』(1978)
32 緑のカオス(石幡直樹)
ジョン・ファウルズ『樹』(1979)
33 田園のいきものたち(石幡直樹)
スーザン・ヒル『イングランド田園賛歌』(1982)
34 不思議、変化、生と死(藤江啓子)
ロバート・フィンチ『大切な場所――ケープコッドの四季』(1983)
35 動物と人間、イマジネーション、魂(塩田弘)
アリス・ウォーカー『わが愛しきものの神殿』(1989)
36 野生動物保護、絶滅危機、動物と人間との関係(塩田弘)
リック・バス『帰ってきたオオカミ』(1992)
37 サイエンス・ジャーナリズムという「文学」(信岡朝子)
コリン・タッジ『鳥――その起源・進化・生体についての自然誌』(2008)
コラム13 都市と自然(石幡直樹)
ジョージ・オーウェル『ヒキガエル考』(1946)
コラム14 「サイボーグ宣言」を動物の権利へも拡張(中島美智子)
ダナ・ハラウェイ『伴侶種宣言』(2003)
コラム15 野生を覗きみる快楽――シートン動物物語の魅力(信岡朝子)
アーネスト・トンプソン・シートン『私の知っている野生動物』(1898)
コラム16 ドメスティック・アニマル――犬の視点(真野剛)
ジャック・ロンドン『荒野の呼び声』(1903)
ポール・オースター『ティンブクトゥ』(1999)