各国の近代化以降、進行の一途を辿った自然の消失と荒廃 に直面した世界は、近代化を推し進めた西欧的自然観と宗教に対峙するものとして、東洋的自然観、先住民の自然観など、自然の再発見、再定義を重ねてきた。 また60年代の公民権運動から多文化主義への流れの中で、固有の土地を中心とした独自の自然観を基盤とするエスニック共同体の中で、例えばネイティヴ・ア メリカンの「共生の自然観」を主要テーマとする作品など、各エスニシティの歴史を背景に、故郷とその自然への回帰や再生を描いた作品も生まれてきた。こう した自然の再定義の過程の中でパストラル/アンタイパストラルの果たした役割が検証され、都会の自然も再考されている。ポスト・パストラルな想像力はパス トラルとアンタイパストラルの閉じられた円環を打破し土地に対する所有と所属の緊張関係を再考し、静止的で定着的なパストラルからより柔軟で流動的なパス トラルやアーバン・パストラルへの転換も試みている。具体的には『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティとジェンダーで読む現代英語環境文学 103選』第2章を参照されたい。
(横田由理)
第2章 自然の再発見 目次
11 失われたエデンとゴシック・ネイチャー(伊藤詔子)
ジョイス・キャロル・オーツ『北門の傍で』(1963)『洪水に流されて』(1968)
12 自然と先住民の神話的伝統社会とその崩壊(横田由理)
ジェイムズ・ウェルチ『フールズ・クロウ』(1986)
13 自然と神話世界への回帰(横田由理)
N. スコット・ママデイ『いにしえの子』(1989)
14 故郷の喪失/再発見(稲木妙子)
キャレット・K・ホンゴー『ヴォルケイノ――ハワイの回想』(1995)
15 山水画、旅(塩田弘)
ゲーリー・スナイダー『終わりなき山河』(1996)
16 父権に抗う官能と自然(大池真知子)
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
『紫のハイビスカス』(2003)
17 自然界における人間の生存(林千恵子)
ロレッタ・アウトウォーター・コックス『冬の旅――北極地方の100年前のサバイバル物語』(2003)
コラム5 新たな批評体系――ナラティヴ・スカラーシップの提示(中島美智子)
スコット・スロヴィック『家を離れて考える』(2008)
コラム6 パストラル、アンタイ・パストラル(水野敦子)
レオ・マークス『楽園と機械文明』(1964)
アネット・コロドニー『大地の形』(1975)