ソロー以降の「市民の不服従」的思想は、自然保護の訴え や環境汚染・公害の告発をテーマとする文学によって引き継がれてきた。これらの文学は、自然破壊や汚染・公害を告発すると同時に、企業や政府のあり方、あ るいは社会そのものの変革を追求するアクティヴィズムの文学でもある。また1960年代から70年代にかけて市民権運動や反戦運動とともに活発化した環境運動は、80年 代に入ると社会公正運動としての側面をより強調した環境正義運動へと拡がり、人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティーといった社会的・文化的要素が、 汚染や環境破壊の不平等な負担に深く関連していることが注目されるようになる。90年代にロバー ト・ブラードが『不平等な保護』のなかで提唱した環境正義や環境的不公正の問題は、北米先住民作家や、チカーノ(チカーナ)作家らの作品中でも重要なテー マとして注目されてきた。平等な環境保護と社会公正を求めるこれらの作家たちは、自然保護や汚染・公害の告発から、農薬汚染・工業汚染、植民地主義問題、 ウラン鉱山や核廃棄物による汚染、都市開発や土地改良などによって引き起こされる不平等な環境保護の問題に至るまで、これまで見過ごされてきた様々な環 境・社会問題に光を当てている。その芸術・文学形態は、エッセイ、小説、詩、戯曲、映像と幅広い。具体的には『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニ シティとジェンダーで読む現代英語環境文学103選』第8章を参照されたい。 (松永京子)
第8章 アクティヴィズムと環境正義 目次
50 環境保護運動、アクティヴィズム(上岡克己)
エドワード・アビー『爆破――モンキーレンチギャング』(1975)
51 ウラニウム鉱山と引き継がれた「抵抗の遺産」(松永京子)
サイモン・J・オーティーズ『ファイトバック――人々のために、土地のために』(1980)
52 植民地主義と先住民の土地奪還の予言(横田由理)
レスリー・マーモン・シルコー『死者の暦』(1991)
53 環境正義と新植民地主義(平尾吉直)
ケン・サロ=ウィワ『ナイジェリアの獄中から――「処刑」されたオゴニ人作家、最後の手記』(1992)
54 汎部族的ビジョンと神話的再領土化(横田由理)
ジョイ・ハージョ『空から落ちてきた女』(1994)
55 ブドウ農園における聖なる闘い(松永京子)
シェリー・モラガ『英雄と聖者、その他の戯曲』(1994)
56 絶望の時代に希望をもたらす環境正義運動の現在(熊本早苗)
レベッカ・ソルニット『暗闇のなかの希望――非暴力からはじまる新しい時代』(2004)
57 9・11以降の環境アクティヴィズム(岸野英美)
テリー・テンペスト・ウィリアムス『民主主義というオープンスペース』(2004)
コラム23 環境汚染とアメリカにおけるその法的補償(城戸光世)
スティーヴン・ソダーバーグ監督『エリン・ブロコビッチ』(2000)
スティーヴン・ザイリアン監督『シビル・アクション』(1998)
コラム24 環境正義の理念・歴史・実践(横田由理)
ジョニ・アダムソン、メイ・メイ・エヴァンズ、レイチェル・スタイン編『環境正義読本』(2002)