9. 都市環境と越境

 都市は階級、人種、ジェンダーが複雑に織り込まれたヘテロ な社会空間であり、このような多民族的で多文化的な空間が環境批評の新たな対象となっている。パストラル神話の対極にある都市は、スラムやゲットーと捉え られ、マイノリティ・グループの貧困化と人種化の象徴ともなっている。閉塞的な空間にみえる都市空間は一方で、他民族、多文化のトランスナショナルなダイ ナミズムとグローバルな経済の結節点として開放度の高い空間でもある。都市空間のもつ開放性は、未来の社会共同体を志向する作品のモチーフともなってお り、さらに都市生活者みずからの越境と移動のディアスポラ的ルートを確認する場所でもある。具体的には『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く――エスニシティ とジェンダーで読む現代英語環境文学103選』第9章を参照されたい。    (吉田美津)

第9章 都市環境と越境 目次

58 カウンター・カルチャーの場所(吉田美津)
  マクシーン・ホン・キングストン『トリップマスター・モンキー』(1989)
59 共同体としての都市スラム(三石庸子)
  アール・ラヴレイス『ドラゴンは踊れない』(1979)
60 古典となったボーダー・ナラティヴ(水野敦子)
  グローリア・アンサルドゥーア『ボーダーランズ/ラ・フロンテラ――新しいメスティサ』(1987)
61 家族史としてのチャイナタウン(吉田美津)
  フェイ・ミエン・イン『骨』(1993)
62 未来のディストピアと人種問題(中垣恒太郎)
  オクティヴィア・E・バトラー『種蒔く人の寓話』(1993)
63 アーバン・インディアン(長岡真吾)
  シャーマン・アレクシー『インディアン・キラー』(1996)
64 ヘテロポリス・ロサンゼルス(吉田美津)
  カレン・テイ・ヤマシタ『オレンジ回帰線』(1997)
65 詩的ジャーナリズムとグローバル・ブラック・コミュニティー(マイケル・ゴーマン/中島美智子訳)
  グウェンドリン・ブルックス『モントゴメリーにて、その他の詩』(2003)
66 川・海・大洋とディアスポラ(大野美砂)
  ポール・マーシャル『三角行路――自伝』(2009)

コラム25 資本主義による都市の拡大とその弊害(辻祥子)
  レイモンド・ウィリアムズ『田舎と都市』(1975)
コラム26 地球から惑星的なあり方へ――世界文学構築の試み(藤江啓子)
  ワイ・チー・ディモック、ローレンス・ビュエル編『惑星の影』(2007)
コラム27 ヘテロトピア――異種混淆性に満ちた空間(真野剛)
  ミシェル・フーコー『他者の場所』(1984)
コラム28 場所の感覚とグローバルな想像力(熊本早苗)
  アーシュラ・K・ハイザ『場所の感覚と地球の感覚』(2008)

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